居るのに見えないトゲナナフシ

 トゲナナフシに初めて出合ったのは、小学校低学年のころだ。秋の山道をのそのそと歩いているトゲナナフシを見つけたのだ。「木の枝みたいな虫がいる!」その不思議な姿にすごく感動した。ワタシは昆虫好きの子供だったが、トゲナナに出会ったのはこの一度きりだった。

 その後30年近く経過し、2003年にナナフシに興味を持ち、ナナフシ採集を開始した。モドキ・エダ・ニホントビ・シラキトビ・ヤスマツトビと次々に採集できたのだが、最後まで採れなかったのがトゲナナだった。春から秋にかけて山の中をずいぶん探して歩き回ったのだが。

 トゲナナフシとは、意外なところで再会することになった。トゲナナフシが見つかった場所は、実家の庭だ。ワタシの実家は福井県福井市にある。2003年11月に実家でトゲナナらしい昆虫が目撃されていたので、現れたら連絡をしてくれるよう頼んでおいた。数日して、母から「2匹捕まえておいたよー」と連絡があったので、早速確かめに行くと確かにトゲナナフシだった。庭をさらに調べてみて、3匹を追加発見。

庭のトゲナナ(矢印)2003

 実家の裏には山があるのだが、庭との間には道路と深い水路があるので、山から庭への行き来は難しいように思える。とすると、トゲナナは実家の庭で繁殖していたのだろうか。実家には18年も住んでいたのに、トゲナナの存在に気付かなかった可能性がある。

 庭のトゲナナ(矢印)2012 

 長年身近に居たのに見えていなかったとなると、とても悔しいのだが、それだけトゲナナの擬態が素晴らしいということだろう。木の枝のような姿でじっとしていると、周りの風景に溶け込んでしまい、とても気付きにくい。上の写真は実家の庭のトゲナナだが、トゲナナという昆虫の存在を知ったうえで、居るはずと思って探さないと見つけることが困難なのである。