思い出のナナフシ -シラキトビナナフシ-

 昔のナナフシ・ファイルをみていたら、シラキトビナナフシについて書いたものをみつけた。作成の日付は2004年6月17日 となっている。せっかくなのでblogで公開しておく。

 −−−−−−−−−−−
 シラキトビナナフシは、ブナ・ミズナラ林に生息する魅力的なナナフシだ。体長は5cmくらい。鮮やかな緑の体色と、体の真ん中を走る茶色のライン、そして前脚の付根のオレンジ色のコントラストが美しい。目を引く鮮やかな体色だが、ミズナラの葉の上にいると、周囲の色彩に溶け込んで目立たなくなる。

 シラキトビナナフシは、他の日本産トビナナフシ(Micadina属)よりも標高の高い深山に生息する。福井県新潟県での採集場所は、いずれも標高1000メートル以上の、冬は雪が深く降り積もるミズナラ林だった。シラキトビナナフシの棲むミズナラ林では、しばしばミヤマクワガタを採集することができる。これら2種類の昆虫が生息する標高は重なっているのだろう。

 普段は折りたたまれているが、シラキトビナナフシは美しい紅色の翅(後翅)をもつ。しかし、この翅はほとんど飛翔の役には立たないようだ。特に、成虫になって2週間もすると、産卵が始まり腹部が膨れ上がり、とても空を飛べるようには見えない。せいぜい、落下時に翅をバタつかせて軟着陸するくらいだろう。
  
 シラキトビナナフシは、オスを必要とせずメスだけで繁殖する。オスは存在すらしないようだ。深山に住むミヤマクワガタは体を大きく強くすることで生存競争に勝ち抜き、シラキトビナナフシは生殖行為すらやめてじっと目立たないことで生き残ってきたのだろう。

 シラキトビナナフシは、樹上から卵を産み落とす。飼育下では、尾部を跳ね上げるようにして卵を放り出すような仕草がしばしばみられる。すこしでも遠くへ飛ばそうという意味なのだろうか。成虫は、一日あたり2個の卵を3ヶ月以上に渡って産卵するので、一生の間に200個以上の卵を産むのではないかと思う。卵の表面にはマスクメロンのような網目模様があって、上部に円形の蓋が付く。

 ミズナラ林で採集されるシラキトビナナフシであるが、成虫と終齢幼虫は飼育下でクヌギ・コナラ・クリの葉を食べた。しかし、幼虫から成虫までのすべての過程をミズナラなしで飼育できるかどうかは経験がないので不明だ。

 飼育下では羽化不全(翅が伸びきらずクシャクシャになる)がよく発生した。他のトビナナフシではあまりみられなかった現象だ。乾燥が強いと羽化不全が多くなるように思える。幼虫は飼育下では4から5月に孵化したが、成虫まで育てることができなかった。夏場にかけて飼育温度が高くなりすぎたからかもしれない。

【シラキトビナナフシのからだの特徴】

■ 前脚のオレンジと背中の茶色
 シラキトビナナフシの胸部と頭部を真上(背面)からみてみよう。シラキトビナナフシには、鮮やかな色のコントラストがある。前脚の付け根はオレンジ色(▲)。さらに、胸部の真ん中に茶色のラインがある(△)。
 
■ 前翅の内側は茶色、外側は黒白
 トビナナフシ属の翅は、小さな円形の翅(前翅)と、薄い膜でできた扇状の翅(後翅)からできている。シラキトビナナフシの前翅は、内側が茶色で、外側に黒白のラインがある。写真は左の前翅で、向かって右が頭側、上が左外側である。
 
■ 腹部のWとY
 シラキトビナナフシのお尻の端(腹端)を真上からみてみよう。腹端はW字型に張り出している(左写真▲)。他の日本産トビナナフシでは、この張り出しは目立たない。次に、腹側から観察してみると、シラキトビナナフシの腹部にはYの字型の突起がある(中・右写真▲;右写真では突起の下に紙を置いた)。ただし、写真ではYの先が閉じてI字型になっている。このY字型の突起も他の日本産トビナナフシには見られない特徴だ。
 

ナナフシの森: 現在では、こんな素晴らしいナナフシwebページがあります。圧倒的な飼育データが素晴らしい!
プラケースワールドナナフシwebページの元祖。ナナフシへの愛情が感じられます。ワタシが以前にナナフシ採集・飼育を始めたのは、プラケースワールドに触発されたからです。