つがいまつがい


 日課となった食草交換をしようと飼育ケースのひとつを開けたところ、コフキコガネが生殖行動の最中だった。これまでメスだけで単為生殖するナナフシを飼ってきたので、このような行為はとても新鮮にみえる。しかし、なんだかおかしいぞ。この飼育ケースには、コフキコガネのオスだけを入れていたはずだ。


 


 アッー!


 確かめてみると、2匹ともちゃんと立派な触角(お髭)が付いている。確かにオスの上にオスが乗っているのだ。さすがに接合は無理なのか、上に乗ったオスは、行きどころのない交尾器を出しっぱなしにしている。メスの上に乗ったつもりが、「何かおかしいぞ」と戸惑っているかのように見える。一方、下になったオスは、突然起こった予想外の出来事に驚き、身を固くしているようだ。


 


 思わぬハプニングではあるが、せっかくの機会なので交尾器の観察を行うことにした。興味深いことに、コフキコガネのオスの交尾器は、陰茎の先が二又に分かれ尖っていた。この突起物は、鍵の凸凹に相当するものだろう。正しい鍵穴にのみ鍵が挿しこまれるよう識別し、その後は簡単に抜け落ちないように役立つのだろうか。 

 観察を終えた後、2匹を引き離そうかとも思ったが、特に害は無さそうだったのでそのままにしておくことにした。しばらくして飼育ケースを覗いてみたところ、2匹のコフキコガネは離ればなれとなって、何事もなかったかのように食草のモミジイチゴを食べていた。

言いまつがい (新潮文庫) まつがい注意