福井の奇習:カニじゃんけん
福井の冬の風物詩、越前ガニ。北陸の地、福井を訪れる旅人の舌を喜ばせる一品ですが、高級食材なので地元民が普段から食べられるものではありません。特にオスのカニは高級品で、福井県民は普段は値段の比較的安いメスガニ(せいこガニ)を食べています。
ごくまれにオスの越前ガニを入手したときは、家族総出で「おカニ様」をお迎えし、カニじゃんけんの儀でおもてなしするのが福井の習わしです。各家それぞれ、いろいろなやり方があると思いますが、我が家での方法を紹介します。
おカニ様が拙宅に到着されました。
「おカニ様のお着ぅーきぃー」 一家の主人が声高らかに宣言します。
「ささっ、どうぞこちらへお上がりくださいませ」
おカニ様には、我が家で一番上等な白塗りの皿の上に座っていただきます。
続いて、家族皆でおカニ様の勇ましくも美しいお姿を称えます。
「まっこと、お美しい甲羅をしていらっしゃいますなあ」
「切っ先鋭い二つの鋏、さぞかし多くの武勇伝をお持ちのことでありましょう」
「とってもおいちそうなお足でちゅね」「こらっ(爺にしかられる)」
「では、そろそろじゃんけんの儀に移りたいと存じます・・」
いよいよカニじゃんけんが始まります。一家の長がおカニ様の斜め前に座して勝負を挑みます。昔はきらびやかなカニ装束を着てじゃんけんに臨んだということですが、現在ではその風習は失われています。
「じゃんけーん、ぽん。」
「かーっ、チョキでございますか。私めの負けでございます。」
「おカニ様、さすがでございます。」
「じゃんけーん、ぽーん。」
「もうひとつチョキとこられましたか。」
「私めもチョキでございます。あいこでございますな。」
以上のパーチョキ出しは、家族皆のテンションが最高潮に達するまで繰り返されます。
「儂らが若かったころは、一晩中じゃんけんを繰り返したもんじゃ」
遠い目をしてワタシの祖父は言いますが、さすがに最近は簡略化されています。
いよいよ機が熟してきました。
皆が唾をゴクリと飲み込んで見守ります。次のじゃんけんで勝負が決することを感じているのです。
「じゃんけーん、ぽーん。」
「こ、これは・・・私めの か、勝ちでございますか・・・」
「お情けありがとうございます。」
主人が目に涙を浮かべながら、家族のほうを振り向いてこくりと頷きます。
家族皆が至福の表情を浮かべながら、おカニ様のもとへわーっと駆け寄ります。
ズワイガニ 2kg 訳あり 蟹 ギフト
福井県で水揚げされたズワイガニを越前ガニと呼びます。
ぷりぷり県 1 (小学館文庫 よC 6)
ビッグコミックスピリッツで読んでいましたが、とても面白かったです。